
「ベル&セバスチャンとは何者だ!?」
初めて彼らのファーストアルバム「If You're Feeling Sinister(邦題:天使のため息)」を聴いた時、まだBelle and Sebastianの実体は公には公開されていなかった。
「どういうビジュアルなのだろう?」
「ベルとセバスチャンという男女ユニットなのか?」
オフィシャル写真として、メンバーではなく友人とぬいぐるみをモデルにした写真をプレスに配り、バンドの中心人物はインタビューというものを一切拒否。おまけに音楽雑誌に登場することすら受け入れようとしない。理由は、面倒くさいから。
知りたいと思う一方、謎めいたままでいてほしいという気もした。
何の先入観もなく、ただただ彼らの音楽に耳を傾けることができたから。
「僕をここから出してくれ 今にも死にそうなんだ」
消え入りそうに歌う声。けれどそれは、ぎりぎりの刹那の叫びにも聴こえる。
そこには集団に溶け込めない者の哀しみ、アウトサイダーとしての視点があった。
目の前の哀しみを直視する姿勢をもったグループは、80年代のThe Smithsを否が応にも思い起こさせる。音楽的にはかなり違うけれど、根底にあるものはまさにSmithsの精神だったと思う。
なんて危うくて素敵な音楽なんだろう。彼らのことは全く知らないけれど、そこには何だか人の人生を狂わせてしまうような、否、狂わせてくれるようなぞくぞくする期待感があった。
やがてついに実体が明らかにされる。その正体は、7人編成のバンドだった。
中心人物はスチュアート・マードック。
スチュアートは80年代初頭、ファンジンを立ち上げて自らインディー・バンドにインタビューしていたという。80年代末には故郷グラスゴーの大学で、土曜の夜にクラブを主宰。My Bloody ValentineやPastelsなどがお気に入りで、極めつきのテーマ曲はNew Orderの「Age Of Consent」だったらしい。さらに90年代初めまでレコード店で働いていたという経歴の持ち主だ。
「If You're Feeling Sinister」は日常に潜む危うい感情を切り取ったもので、様々な試行錯誤を繰り返してきたスチュアートのなせる技なのだろう。不思議と心を絡め取られる魔力と可能性を秘めていて、個人的には彼らの最高傑作だと思う。
そして2枚目「The Boy With The Arab Strap」。これも瑞々しく素晴らしいアルバムだと思う。けれど、僕にとっては1stで感じた少年少女が青年になり、何かあきらめのようなものを抱いてやや一般受けを狙ったようにも感じてしまった。
以降、グループのマスコット的存在ながら重要な位置を占めていたイザベル・キャンベルが脱退、さらにバンドは「t.A.T.u.」などで知られる敏腕プロデューサー、トレバー・ホーンを迎え、よりポップナイズ化が進む。
残念ながら、それは僕がこのバンドに求めることではなかったし、次第に心が離れていった。
「If You're Feeling Sinister」をじっと静かに聴いていた時は、突然叫び出したくなる狂おしい衝動に駆られたものだ。残念ながら、いつしかBelle and Sebastianからそれを感じることができなくなってしまった。誰もが大人にならなければならないように、それは仕方のないことなのかもしれない。けれど、このバンドだけは、Belle and Sebastianにだけは、永遠に大人にならないでほしかったのだと思う。
1stで感じた、自分をどこかへ連れ去ってしまうような感覚。
あれは魔法だったんだ。少年少女の閉じられた世界だけに許される、甘くて痛い魔法。
僕にはそう思えてならない。
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