
ストーンズのシンフォニック・サンプルが始まる。
単調なリズムがループし、地平線の彼方で轟く雷鳴のようなギターがこだまする。
「苦しみと優しさの交響曲、それが人生」
リチャード・アシュクロフトの声が高らかに鳴り響く。
全ての物事からある一定の距離をとる。
まだ10代の時、そうすることが人生の処世術だと本気で信じていた。人とも適度な距離を置いて付き合えば、傷つくこともないだろう、と。本当の優しさを知らなければ、本当の苦しみを知ることもない。
ならば自分をさらけ出すのはやめ、全てから距離を置こう。
そしてある時、自分をさらけ出すことができない人間になってしまったことに気づいた。そんな態度は、幾人かの人々を傷つけ、あるいは誤解させてきたように思う。
心の中では自分を解放したいのだけれど、それができない。そんなジレンマにとらわれるようになった。
だからこそ、僕は音楽が好きになったのかもしれない。僕にとって音楽を、特にロックを一言で表現するなら、「解放」だから。
10年前の1997年、ジェフ・バックリィがメンフィスで永眠した年。
この年はロック界にとって実に豊作だった。
Radiohead「OK Computer」、The Verve「Urban Hymns」、oasis「Be Here Now」、U2「POP」、Primal Scream「Vanishing Point」、blur「blur」、Belle & Sebastian「If You're Feeling Sinister」、The Charlatans「Tellin' Stories」、Spiritualized「宇宙遊泳」、Bjork「Homogenic」、挙げていたらキリがないほどだ。
それが良作であれ駄作であれ、好みであれ好みでなくあれ、CD屋に行って試聴するのが楽しみだった。
と同時に、ブリット・ポップ終焉の年でもある。狂騒的だったこのムーブメントに終止符のくいを打ち込んだのが、Radiohead「OK Computer」とThe Verve「Urban Hymns」だったと言ってもいいだろう。
ザ・ヴァーヴのフロントマン、リチャード・アシュクロフトは、声だけで聴く者の心を震わせることができる稀有なヴォーカリストだ。
彼が一音発するだけで、空気がピリッとした危うい緊張感を漂わせながら震える。ちなみにoasisの「Cast No Shadow」は、リチャード・アシュクロフトに捧げられた曲だ。 「影さえ失ったアイツ」。
多くの偉大なバンドがそうであるように、ザ・ヴァーヴも正反対の2人の人間が交わることによって、並のバンドが得ることの出来ない化学反応を引き起こしていた。外向的なリチャード・アシュクロフトと、内向的なギタリスト、ニック・マッケイブ。
しかしニックが精神に支障をきたし脱退、後任にはリチャードの友人でもあるバーナード・バトラーの名も挙がったが、「バーナードが加わればヴァーヴは最強になる。けれど、バンドに2つのエゴはいらない」と解散を発表、もはや再結成はないと思われていた。
しかしこの度、まさかの再結成である。しかもほぼオリジナル・メンバーで。
公式発表ではただ一言「音楽を楽しむため」とあるが、相当の覚悟とリスクがあったはずだろう。
本当の優しさを知らなければ、本当の苦しみを知ることもない。けれど逆に言えば、本当の苦しみを知れば、本当の優しさを知ることができる。
リチャードの中で、何かが変わったのだろうか。
ストーンズのシンフォニック・サンプルが始まる。
単調なリズムがループし、地平線の彼方で轟く雷鳴のようなギターがこだまする。
「苦しみと優しさの交響曲、それが人生」
リチャード・アシュクロフトの声が高らかに鳴り響く。
心が震え、僕の中で何かが変わる。
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ザ・ヴァーヴ『Urban Hymns』